アレルギー Q & A

こんにちは。看護師の柴山亜希です。
2022年に「小児アレルギーエデュケーター(PAE)」の資格を取得し、アレルギーをもつお子さんとご家族のサポートをしています。

**小児アレルギーエデュケーター(Pediatric Allergy Educator)**とは、日本小児臨床アレルギー学会が認定している資格で、アレルギー疾患をもつお子さんやご家族への生活指導やサポートを行う、医療スタッフの専門資格です。
わかりやすく言えば、「アレルギーに詳しい看護師」です。

これまで吉成小児科では、

  • アトピー性皮膚炎のスキンケアや塗り薬の使い方
  • 喘息のお子さんへの吸入指導
  • 食物アレルギーとエピペンの使い方

などのサポートを行ってきました。

私自身もアトピー性皮膚炎とアレルギー性鼻炎があり、2人の息子を子育て中です。アレルギーと向き合う大変さや不安に、少しでも寄り添える存在でありたいと思っています。

現在は転居により東京のアレルギー科クリニックに勤務していますが、これからもこのHPで「アレルギーQ&A」を担当させていただきます。
患者さんや保護者の方からよくいただくご質問に、できるだけわかりやすくお答えしていく予定です。

不安や疑問が少しでも軽くなるよう、お手伝いができましたら嬉しいです。どうぞよろしくお願いいたします。

タイトルナンバー

No.タイトル
Q-1アトピー性皮膚炎と診断され、塗り薬をもらいました。何をどれだけ、いつまで塗ったらいいのかわかりません。
Q-2
アトピー性皮膚炎は治りますか?
Q-3
アトピーの治療は正直大変だし、痒みを我慢できれば放置してもいいですか?
Q-4
塗り薬が処方されている場合、日焼け止めは塗ってもいいですか?
Q-5
赤ちゃんの顔を洗うのは怖いので、ガーゼで拭くだけにしています
Q-6
アレルギー情報をインターネットで調べる際、どの情報を信用して良いかわかりません
Q-7
一度ステロイドを使うと、リバウンドを起こして一生やめられないのですか?
Q-8
ステロイドが体内に蓄積されてしまうのか心配です
Q-9
ステロイドを使うと皮膚が黒くなっちゃうと聞いたんですが、本当ですか?
Q-10
ステロイド軟膏を塗ればすぐに良くなるのですが、やめるとすぐにぶり返してしまい困っています。
Q-11
食物アレルギーを予防するために、離乳食は遅く始めた方がいいのですか?

Q-1.アトピー性皮膚炎と診断され、塗り薬をもらいました。何をどれだけ、いつまで塗ったらいいのかわかりません。

A: 当院では、下の図のように治療を行っています。

アトピー性皮膚炎治療の流れ

急性期の治療(炎症を抑える治療)

湿疹というのは、皮膚に炎症が起きている状態のため、まず炎症を抑える治療が大切になります。炎症を抑えてくれる薬は、ステロイド外用薬です。

湿疹は、よく火事にたとえられます。

湿疹は、よく火事にたとえられます。

また、消火(皮膚の炎症を抑える)だけでは不十分で、火の用心(皮膚を良い状態に保つ)することも、とても大切です。
これを、「スキンケア」と呼びます。スキンケアとは、具体的には皮膚の清潔と保湿をして、皮膚のバリア機能を回復させていくことです。

皮膚の清潔と保湿は、皮膚を良い状態に保つ、言わば火の用心です。

アトピー性皮膚炎の患者さんには、大きく分けて主に2種類の薬が処方されています。


保湿剤(プロペト®︎、ヒルドイド®︎ソフト、ヘパリン類似物質油性クリームなど)⇨全身

ステロイド外用薬(ロコイド®︎軟膏0.1%、ボアラ®︎軟膏0.12%、マイザー®︎軟膏0.05%など)⇨湿疹部分


どちらも、塗る目安量があるので、下の図を参考に塗ってみましょう。塗った後は、皮膚の表面がテカテカとし、ティッシュペーパーをくっつけると簡単にはがれなければ、上手に塗れている証拠です。

塗る量は、保湿剤もステロイド剤も一緒です。

※湿疹部分

湿疹を判断する基準は、「赤い場所、痒い場所、触ってザラザラしている場所」になります。赤くて傷のあるような部分は、湿疹と判断しやすいですが、痒みがあるところやザラザラとしている場所は見逃しがちで、ステロイド軟膏を塗れていないことが多いので、要注意です。

アトピー性皮膚炎の実際

さて、いつまでステロイド外用薬を塗ったらいいのでしょうか。

赤みが消えて、痒くなくなって、触ってツルツルとした肌になったら、ステロイド外用薬は終了です。
ただし、その後良い状態を維持していくために、ステロイド外用薬の終わらせ方もポイントになります。
症状に応じて、プロアクティブ療法か、リアクティブ療法にわかれます。どちらの療法に移っていけば良いかは、医師に確認してください。

プロアクティブ療法
リアクティブ療法

初回の患者さんや、久しぶりで塗り方が心配な患者さんには、看護師が隣について一緒に塗る練習をしています。
忘れてしまった、自信がない、確認したいなどご希望の方には何度でも指導しますので、お声がけください。

Q-2.アトピー性皮膚炎は治りますか?

A:  短期間で治ることはありません。治療の最終目標(ゴール)は、正しい治療を行うことで症状がないか、あっても軽微で、日常生活に支障がなく、薬物療法もあまり必要としない状態に到達し、それを維持することです。
 症状が改善すると、薬の量やケアの時間がグッと減ります。何より、強烈な痒みや痛みから解放されて、快適な日常生活を獲得できます。そのため、患者さんの判断で薬を途中で辞めたりせず、医師の指示通りに使用していくことが、ゴールに到達する近道となります。


Q-3.アトピーの治療は正直大変だし、痒みを我慢できれば放置してもいいですか?

A:  まず大前提として、アトピー性皮膚炎による痒みは我慢できるような生易しい痒みではありません。
痒みを我慢しているつもりでも、無意識に掻いていたり、寝ている間に掻いてしまって、パジャマに血がついていることもあるでしょう。強烈な痒みをおさえるために、治療が必要になります。
 また、アトピー性皮膚炎の治療を行わないことで、様々な不都合が起きます。

  1. 掻くことによって、皮膚炎が悪化する。
  2. 乳幼児期の重症アトピー性皮膚炎では、低タンパク血症、脱水、電解質異常が起こることがある。
  3. 顔面のアトピー性皮膚炎が重症であると、目周囲を掻くことにより、網膜剥離が発生しやすい。
  4. かゆみによる不眠に伴う成長障害の恐れがある。
  5. 睡眠障害のため、昼間の集中力の低下が起きる。
  6. 皮膚症状が外見でわかるため、他人の視線が気になる。
  7. 症状が長期化することで心理的な負荷が強くなり、不登校などの影響が生じやすい。
  8. 入学や受験など生活環境が変わる時期や、友人や家族など対人関係に関することなど、成長発達過程で生じやすい問題が、さらに症状を悪化させる場合がある。

 アトピー性皮膚炎の治療は長期戦になるため、放置したくなる気持ちはとてもよくわかります。
しかし、放置している時間が長いほど、これらの不都合が生じてしまう可能性が高くなります。
症状が軽く長期化する前に、良い状態にもっていくことは今後の生活をより良いものにしてくれます。
現時点で長期化してしまっている重症の患者さんでも、症状を軽減する道は必ずありますので、ぜひ医師や看護師にご相談ください。

Q-4.塗り薬が処方されている場合、日焼け止めは塗ってもいいですか?

A:  日焼け止めは塗っても大丈夫です。保湿剤やステロイド薬など、病院から処方された薬をいつも通り塗った上に、重ねて日焼け止めを塗ってください。
 ただし、過剰な紫外線に曝されることは、将来の皮膚の健康や美容にさまざまな悪影響が生じると言われているため、あまり強い日焼けをし過ぎないように注意することが、生涯健康で過ごすために大切であると考えられています。
また、急激な日焼けによりアトピー性皮膚炎の悪化を起こしてしまった際は、医師に相談してください。

Q-5.赤ちゃんの顔を洗うのは怖いので、ガーゼで拭くだけにしています

A:  顔を洗うと赤ちゃんが泣き、目に泡が入っているのではないかと心配される方が多いです。
しかし、皮膚のためには、よく泡立てたモコモコの泡を使い、手で優しく洗うのが大切です。
コツは、泡を流す時に、「顔のおでこ側からお湯を流すこと」と、「乾いたタオルですぐに拭く」ことです。
おでこ側からお湯を流すと、人間の目は自然に閉じるので、泡が目に入ることは稀です。
赤ちゃんは目が痛くて泣いているのではなく、顔が濡れたのが不快で泣いていることが多いので、近くに乾いたハンドタオルなどを置いておき、洗顔後すぐに顔の水分だけ拭き取ってあげると泣き止んでくれたりします。

Q-6.アレルギー情報をインターネットで調べる際、どの情報を信用して良いかわかりません

A:  アレルギーに関する情報は、インターネット上にあふれかえり、間違った情報が存在していることもあります。
正しい情報を発信している組織、団体、ホームページを以下に紹介しますので、参考にしてみてください。

厚生労働省           厚労省 アレルギー で検索
独立行政法人環境再生保全機構  https://www.erca.go.jp/
日本アレルギー学会       https://www.jsaweb.jp/
日本小児アレルギー学会     http://www.jspaci.jp/
日本小児臨床アレルギー学会   http://jspca.kenkyuukai.jp/information/
日本アレルギー協会       http://www.jaanet.org/
小児慢性特定疾病情報センター  https://www.shouman.jp/

Q-7.一度ステロイドを使うと、リバウンドを起こして一生やめられないのですか?

A:  医師の指示のもとゆっくり減らせば、湿疹が消えて、ステロイドを使用しなくてもよい状態になります。
ただ、湿疹が完全に治っていない時にステロイドを急に中止してしまうと、症状がぶりかえしてしまうことが多いです。
この状態をリバウンドと感じてしまうことがあるようです。

Q-8.ステロイドが体内に蓄積されてしまうのか心配です

A:  ステロイド外用薬は、元々体内で産生されるステロイドホルモンをもとに作られています。
ステロイドホルモンが体内に蓄積されず分解されるのと同じで、ステロイド外用薬も蓄積されません。

Q-9.ステロイドを使うと皮膚が黒くなっちゃうと聞いたんですが、本当ですか?

A:  ステロイドの副作用で、皮膚が黒くなることはありません。しかし、アトピー性皮膚炎による炎症が長引くことで、メラニンが放出されて色素沈着がおこり、一時的に皮膚が黒くなることがあります。
湿疹がよくなって皮膚の状態が落ち着くと、皮膚のターンオーバーでメラニン色素がついている細胞部分もはがれおちて、本来の色の皮膚に戻ります。

Q-10.ステロイド軟膏を塗ればすぐに良くなるのですが、やめるとすぐにぶり返してしまい困っています。

A:  赤みや痒みが良くなると、「もう薬を塗らなくても大丈夫かな?」と思って、すぐにステロイド軟膏をやめてしまう方もいるかもしれません。しかし、湿疹治療の大原則は、「たっぷり塗って、続けよう」です。なぜ、たっぷり塗り続けた方がいいのでしょうか?その理由は、下の図を見ながら、一緒に考えてみましょう。

湿疹部分の表面は、触るとツルツルというより、ザラザラしていて表面がこの絵のように凸凹しています。凸凹の頂点が炎症の一番強いところなので、すりこんだり薄く塗ると肝心な場所にお薬がつかず、十分な効果が得られません。たっぷりのせるように塗ると、必要な部分にお薬がつきます。

たっぷり塗ると、2、3日で効果がわかります。綺麗になると、このタイミングで塗るのをやめてしまう患者さんが多いですが、綺麗になってもすぐに薬を塗るのをやめないでください!

なぜ、すぐにやめないほうがいいのでしょうか?その理由は、下記の図をご覧ください。

この3つの四角は、皮膚の断面図です。点線の上が皮膚の表面の見えている部分で、点線の下が、見えない皮膚の内部になります。

まず、左の絵を見てください。湿疹のある皮膚の表面は、赤み、痒みでいっぱいで皮膚の下には炎症細胞があります。1週間ほど薬をたっぷり塗ると、真ん中の絵のように皮膚の赤み、痒みは消え、見かけ上は綺麗になります。ただ、皮膚の下にはまだ炎症細胞が残った状態です。この状態のまま放っておくと、炎症細胞が活性化され、また皮膚の表面に赤み、かゆみがポツポツと出てきてしまい、左と真ん中の状態を繰り返してしまいます。これが、このQ10のステロイド軟膏を塗ればすぐに良くなるのですが、やめるとすぐにぶり返してしまい困っています。 の状態です。そうならないように、ステロイド塗布を続けて、炎症細胞を無くすように、芯から治すのが大切です。ステロイドを続ける期間は、湿疹の重症度によって変わります。綺麗になってから+3日でいい患者さんもいれば、プロアクティブ療法と言ってステロイドの間欠塗布に移行する患者さんもいます。

Q-11.食物アレルギーを予防するために、離乳食は遅く始めた方がいいのですか?

A:  答えはNOです。

離乳食を遅らせることに食物アレルギーの予防効果はありません。
それを証明するデータを、ピーナッツ、卵、牛乳の順にご紹介し、説明していきます。


1.ピーナッツ:イスラエルとイギリスの比較研究
世界的にみて、イスラエルの子供たちはピーナッツアレルギーになる割合が低いことが知られています。
こちらの下のデータをご覧ください。

居住地🏠イスラエル🇮🇱イギリス🇬🇧
ピーナッツアレルギー有病率0.17%1.85%
生後9ヶ月までにピーナッツを与える率69%10%
8〜14ヶ月でのピーナッツ摂取率

7.1g/月

8回/月

0g/月

0回/月

(G.Lack,JACI 2008;121:1331-1336)

ピーナッツアレルギーの人の割合はイギリス1.85%に比べて、イスラエルは0.17%です。
イスラエルとイギリスでは、約10倍の差があります。

イスラエルでは、上の写真にあるようなバンバというお菓子が乳児期によく食べられています。バンバは、日本でいうと、WAKODOのような大手離乳食メーカーの赤ちゃんせんべい的なものです。そのバンバのお菓子の味付けにピーナッツ粉末が使用されています。
このデータの2列目にあるように、生後9ヶ月までにピーナッツを与える率は、イギリス10%に対して、イスラエルは69%です。この結果からもわかるように、イスラエルの赤ちゃんの多くは、身構えることなく、ピーナッツを早期から日常的に食べていることがわかります。
イスラエルの子供にピーナッツアレルギーが少ないのは、早い時期からピーナッツを食べているからではないか?と仮説を立て、実際にイギリスの子供達に臨床実験を行った結果が日本経済新聞に掲載されました。

この記事を読んでいただくと分かるように、やはりピーナッツを早く食べさせていると、ピーナッツアレルギーを発症するリスクを減らせるということが証明されました。


2. 卵:日本の臨床研究
次は、卵についての論文です。

(Natsume O,et al.LANCET 2017;389:276-86)

こちらは、国立成育医療センターで研究したものです。
生後6ヶ月から12ヶ月の間で、卵の粉末を毎日あげるグループと、卵ではなくプラセボとしてカボチャの粉末をあげるグループに分け、調査したものになります。
結果は、1歳の時点で加熱した卵の粉末7gを食べて何か症状が出るかどうかのテストをしてみると、プラセボグループは38%、卵を毎日あげていたグループは8%となりました。卵を毎日あげていたグループの卵アレルギーの割合が、なんと8割も減ったことがわかりました。
今回対象者は、湿疹をきちんと治療しながら行ったことも、この研究がうまくいった理由の1つと言われています。
このように卵についても、早くから始めておくと、アレルギー予防に繋がることがわかりました。「乳児期に卵をあげない」「アレルギーが怖いから1歳まで待つ」ということが、かえって卵アレルギーのリスクを高めてしまうことが、ご理解いただけたと思います。


3. 牛乳:早期摂取の効果
最後は、牛乳に関しての研究になります。
母乳は赤ちゃんにとても大事なものだということにもちろん異論はありませんが、少しミルクを足すのもありかも?!というお話しです。

(Sakihara T,et al.J Allergy Clin Lmmunol 2021;147:224-32.)

生後1ヶ月から3ヶ月の間に、母乳+10ml以上粉ミルクを飲ませるグループ()と、母乳のみ、もしくは母乳+大豆乳を飲ませるグループ()にわけます。生後6ヵ月の時点で、母乳+10ml以上ミルクを飲ませたグループは、牛乳アレルギーの発症リスクが、9割減ったという結果が出ました。
牛乳も早くから飲ませていると、アレルギー予防に繋がることがわかりました。

以上、3つの論文をご紹介しました。口から食べる刺激を効果的に促すことで、食物アレルギーが減るということがお分かりいただけたでしょうか?
食物アレルギーが怖くて、食べること自体を避けたい気持ちになるのはよくわかります。しかし、口から食べないことで、かえって食物アレルギーのリスクを高めてしまいます。初めての食材を食べさせるときは、少量ずつ、平日昼間のクリニックが空いている時間帯からぜひチャレンジしてみてください。